「Pマークの更新に向けて、二要素認証を入れないといけないのか」というご質問をいただくことが増えています。結論から申し上げると、「二要素認証を導入すること」という条文がある訳ではありません。しかし、だからといって「対応しなくてよい」という話にもなりません。この記事では、Pマークの枠組みで認証がどう扱われるのか、審査で実際に問われる範囲はどこまでなのかを整理します。
結論:条文としての義務ではないが、説明責任は発生する
プライバシーマーク制度は、事業者がJIS Q 15001に適合した個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を構築し、運用していることを評価する制度です。
この規格は、特定の製品や技術を名指しで要求する作りになっていません。「二要素認証を導入せよ」「パスワードは何文字以上にせよ」といった具体的な指定ではなく、「取り扱う個人情報のリスクに応じた安全管理措置を講じ、それを継続的に見直すこと」を求める構造です。
つまり問われるのは、「何を入れたか」ではなく「なぜその措置で十分だと判断したのか」です。ここが、チェックリスト的に対応できない部分であり、多くの担当者が悩む理由でもあります。
「必須ではない」を「不要」と読み替えると危険です
規格に明記されていないことを理由に何も検討していない状態は、審査の場で最も説明しづらい状態です。
逆に、二要素認証を導入していなくても、リスクを評価した記録があり、代替となる措置を講じ、その妥当性を説明できるのであれば、それは規格の求める姿に沿っています。差が出るのは対策の有無そのものではなく、判断の過程が残っているかどうかです。
JIPDECも認証の強化に言及しています
JIPDECは2026年4月、付与事業者に向けて「認証の強化(多要素認証の導入等)」を含む確認事項を公表しています。規格の条文とは別に、制度の運営側が注意喚起として認証を挙げている点は押さえておくべきです。
こうした注意喚起が出ている領域は、審査の場で確認される可能性が相対的に高くなります。「聞かれてから考える」より、事前に自社の状況を整理しておく方が負担が小さくなります。
なぜ今、認証が問われるのか
個人情報の漏洩というと、以前は「メールの誤送信」「USBメモリの紛失」といった人的なミスが中心でした。しかし近年は、正規のID・パスワードを使って正面から入られる侵入が増えています。
攻撃者が正規の認証情報でログインした場合、システムから見ればそれは正当な利用者のアクセスです。不正なアクセスとして検知することが難しく、気づくまでに時間がかかります。
認証情報がどのように盗まれ、何に使われるのかは フィッシングによる認証情報の窃取や パスワードリスト攻撃で詳しく解説しています。
パスワードだけで守っている状態は、盗まれた瞬間に防御がゼロになる設計です。二要素認証が注目されるのは、盗まれても即座に突破されない構造を作れるからです。
審査で問われる範囲はどこまでか
認証について確認される範囲は、「個人情報を取り扱う情報システム」が基準になります。
見落とされやすいのは社内PC・サーバーへのログイン
クラウドサービスの認証は比較的意識されやすい一方、社内PCやファイルサーバーへのログインが検討の対象から抜けているケースが少なくありません。
しかし、顧客情報を含むファイルがPC内やファイルサーバーに保存されているのであれば、そのPCへのログインは個人情報へのアクセス経路です。Windowsのログインパスワードだけで守られている状態は、実質的に個人情報がパスワード1つで守られている状態と同じことになります。
Windows環境での対応方法は WindowsのOSログインに二要素認証を入れる方法で整理しています。
確認されやすい3点
- 規程に書かれているか:認証やアクセス制御について、社内規程・手順書に定めがあるか
- 運用された記録があるか:定めた通りに実施したことを示す記録が残っているか
- 見直しているか:リスクの変化に応じて措置を再検討した形跡があるか
規程だけあって記録がない状態は、指摘につながりやすい典型です。実務では運用しているのに記録の形になっていない、というケースが多くあります。記録の残し方は アカウント管理台帳の作り方で具体的に扱っています。
導入しない場合に必要になる説明
二要素認証を入れないという判断自体は問題ありません。その場合、次のような点を説明できる状態にしておくことになります。
- どの情報資産に、どのリスクがあると評価したのか
- そのリスクに対して、どの措置で対応することにしたのか
- その措置で十分と判断した根拠は何か
- いつ、誰が、その判断を見直すのか
代替措置として挙げられるものには、アクセス権限の最小化、ログの監視、端末の持ち出し制限などがあります。ただしこれらは「パスワードが盗まれた場合」への直接的な対策にはなりません。この点は正直に評価した方が、後の指摘を減らせます。
権限の絞り込みについては 特権アカウントの管理、ログの扱いについては アクセスログの監査を参照してください。
よくある誤解:二段階認証と二要素認証は同じではありません
「パスワードを2回入力する」「秘密の質問を追加する」といった方式は、要素が増えていないため二要素認証にはあたりません。要素とは「知識・所持・生体」の3種類を指し、異なる種類を組み合わせることに意味があります。
違いの詳細は 二段階認証と二要素認証の違いで解説しています。導入を検討する前に、ここを取り違えていると対策そのものがずれます。
あわせて確認したい論点
更新審査に向けて状態がずれやすい箇所は Pマーク更新審査で指摘されやすい10項目にまとめています。規程に何を書き、どの記録を残すかは JIS Q 15001のパスワード管理を参照してください。
アクセス権の側から見た要求は Pマークのアクセス制御、指摘を受けた場合の対応は Pマーク審査で認証を指摘されたときの対応で扱っています。ISMS認証との違いは PマークとISMSの違いで比較しています。
よくある質問
Pマークの審査で二要素認証がないと落ちますか
認証方式そのもので合否が決まる仕組みではありません。問われるのは、リスクを評価し、講じた措置の妥当性を説明できるかです。ただし検討の記録が一切ない場合は、指摘の対象になり得ます。
クラウドだけ対応すれば十分ですか
個人情報が社内PCやファイルサーバーにも保存されているなら、そちらも検討の範囲に入ります。保存場所を洗い出すところから始めるのが確実です。
コストが心配です
費用の考え方は 多要素認証の費用構造で整理しています。全社一律ではなく、個人情報に触れる範囲から段階的に入れる方法もあります。
自社の対応状況を確認するには
認証やアクセス制御の現状を洗い出す作業は、着手前の見通しが立ちにくいものです。applippliの無料診断では、約3分の質問に回答するだけで、ID・パスワードに関連する対応状況を5段階で判定し、結果をPDFレポートでお届けします。個人情報の入力は不要で、会員登録もありません。更新審査の前に、自社の位置を把握する用途にもお使いいただけます。
参考・出典
※ 本記事は2026年8月時点で公表されている情報に基づく一般的な解説です。審査の運用や要求事項の詳細は変更される可能性があります。個別の判断については、審査機関または上記の公式情報をご確認ください。
