不正アクセスという言葉は広く使われていますが、実際に何がどこから起きているのかを社内で整理できている企業は多くありません。対策を検討する前に、まず侵入経路にどのような種類があるのかを押さえておくと、自社で優先すべき箇所が見えやすくなります。この記事では、防御する側の視点から不正アクセスの定義と経路の類型、そしてどこから手を付けるべきかを解説します。
不正アクセスとは何か
不正アクセスとは、アクセスする権限を与えられていない者が、他人の認証情報(IDやパスワード)や、システムの弱点を利用して、コンピュータやサービスの内部に入る行為を指します。日本では不正アクセス行為の禁止等に関する法律により、こうした行為やそのための認証情報の取得・提供が禁止されています。
ここで押さえておきたいのは、不正アクセスは必ずしもウイルスを伴わないという点です。他人のIDとパスワードでそのままログインされた場合、システムから見れば正しい認証情報での接続であり、外形上は通常の利用と区別が付きません。この「正規のログインに見える侵入」が、企業の現場で最も気づきにくい類型です。
侵入経路の主な種類
不正アクセスの種類を経路で分けると、実務上は次の5つに整理できます。それぞれ守り方が異なるため、自社にどの経路が存在しているかを確認する視点で読み進めてください。
1. 盗まれたID・パスワードを使った正規ログイン
どこかで漏れた認証情報が、そのまま本来の入口から使われる経路です。別のサービスから流出した組み合わせが、社内システムでも同じまま使われていた場合に成立します。不正ログインという形をとるため、後述するように検知が難しい経路です。
2. 機器やソフトウェアの弱点を突く侵入
社外に向けて公開されている機器やソフトウェアに、修正プログラムが適用されていない弱点が残っている場合、そこが入口になります。特にリモートアクセスのための装置は狙われやすく、VPN機器の脆弱性が侵入経路になる理由で扱っています。
3. 利用者を騙して認証情報を入力させる手口
本物に似せた画面やメールで、利用者自身に認証情報を入力させる経路です。技術的な弱点ではなく人の判断を狙うため、システム側の対策だけでは防ぎきれず、認証の仕組み自体を強くしておく必要があります。
4. 取引先や委託先を経由する経路
業務上の接続を許可している相手側が侵入を受け、その接続を通じて自社に到達する経路です。自社の管理範囲外で起きるため、どの相手にどの範囲の接続を許可しているかの把握が重要になります。
5. 内部の関係者による持ち出し
在職者や退職者が、与えられた権限あるいは残ったままのアカウントを使って情報を持ち出す経路です。退職者アカウントの無効化漏れや過剰な権限付与が背景になりやすく、アカウント管理の実務ポイントで整理しています。
なぜ経路(1)が特に厄介なのか
盗まれた認証情報による侵入は、ウイルスファイルの実行を伴いません。そのため、ファイルの危険性を判定するウイルス対策ソフトでは検知の対象になりにくく、導入済みだから安心とは言えません。ログの上でも正しいIDによる接続として記録されるため、通常の業務アクセスに紛れてしまいます。
この差は、守り方の選び方にも影響します。何を検知でき何を検知できないかについてはUTM・エンドポイント対策と認証対策の違いを、検知の仕組みと事前の点検の関係については侵入検知と侵入予防の違いを参照してください。
なぜ規模の大小に関わらず狙われるのか
「自社は小さいので狙われない」という認識は、実態とずれている場合があります。攻撃には、特定の企業を選んで狙い撃つものだけでなく、公開されている経路の中から弱い箇所を機械的に探していく形のものが含まれます。この場合、標的になるかどうかは企業の知名度や規模ではなく、入口が弱いまま残っているかどうかで決まります。
加えて、取引先へ到達するための足がかりとして狙われる場合もあります。自社に大きな価値がなくても、接続先を持っていること自体が理由になり得るという点は押さえておきたいところです。過去に起きた事例の傾向はパスワード漏洩の事例で紹介しています。
侵入された後に何が起こりうるか
侵入が成立した場合、影響は入口の1台では止まらないことがあります。実務上、想定しておくべき展開は次のようなものです。
- データの持ち出し — 顧客情報や社内資料が外部へ持ち出される
- 業務システムの停止 — 業務が継続できなくなる(ランサムウェアの基本対策も参照)
- 社内の他のサーバーへの拡大 — 最初の1台を起点に、社内の別のシステムへ範囲が広がる
- 取引先への波及 — 自社を経由して接続先にも影響が及び、説明責任が生じる
漏洩が判明した後に何が起きるか、初動として何をすべきかはパスワード漏洩の影響と初動対応で詳しく扱っています。
どこから対策すべきかの優先順位
すべてを同時に進めることは現実的ではありません。経路の性質を踏まえると、着手の順序は次のように整理できます。
- パスワードのみで入れる入口を無くす — 経路(1)を成立させないための最も直接的な手立てです
- 社外に開いている経路を把握する — どの機器やサービスが外部から接続できる状態かを一覧にします
- 権限を絞る — 侵入されても届く範囲を限定し、拡大を抑えます
- 気づける仕組みを持つ — 不審なログインに後から気づける状態を作ります(ログイン履歴から兆候を確認する方法を参照)
それぞれの具体的な進め方や社内での合意形成については不正アクセス対策の進め方を、認証を強くする手段としての多要素認証はWindows OSログインの2要素認証をご覧ください。
まずは自社の状況を確認する
どの侵入経路が自社に残っているかは、利用しているシステムや運用体制によって異なります。applippliの無料診断では、約3分の質問に回答するだけで、自社の認証・アカウント管理の対応状況を確認できます。対策の優先順位を決める出発点としてご利用ください。
