大阪急性期・総合医療センターのランサムウェア被害|調査報告書が示す「全サーバー共通のパスワード」と横展開の7段階

2026年10月公開株式会社アプリップリ編集部

Windowsのログインまわりのソフトを開発・提供している会社が、中小企業の情シス・総務担当の方に向けて書いています。

この記事の要点

  • ✓侵入口は病院ではなく、給食事業者側にあったリモート保守用のVPN機器でした
  • ✓病院内では、Windowsのパスワードがサーバー・端末ごとにすべて共通だったため、1つ盗まれると他のすべてに入れる状態でした
  • ✓報告書は、侵入を許した場合でも初期設定が適切であれば大規模な横展開はなかった可能性があると指摘しています
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    2022年10月31日、大阪急性期・総合医療センターはランサムウェア攻撃を受け、電子カルテを含む総合情報システムが使えなくなりました。緊急以外の手術や外来診療を一時停止し、診療機能が完全に戻ったのは翌年1月11日です。調査・復旧費用は数億円以上、診療制限による逸失利益は十数億円以上と見込まれています。

    同センターの調査委員会は2023年3月28日に調査報告書と概要版を公開しました。この記事では概要版をもとに、攻撃者がどこから入り、どうやって院内に広がったかを整理します。病院の事例ですが、委託先とつながる構造や、Windowsのパスワードの扱いは一般の企業とまったく同じです。

    報告書が示す、攻撃者の7つの手順

    1. 給食事業者に侵入 — 給食事業者の給食システムに、リモート保守用に設置されたVPN機器の脆弱性を使って侵入(漏えい・公開されていたID・パスワードで侵入された可能性もある)
    2. 給食事業者内で探索・情報窃取 — 給食事業者のデータセンターのID・パスワードが脆弱で、容易に不正アクセスされ、IPアドレスやパスワードなどを窃取された
    3. 病院の給食サーバーに侵入 — 窃取した病院サーバーの認証情報で、RDP(リモートデスクトップ)を使って病院の給食サーバーに侵入。ウイルス対策ソフトもアンインストール
    4. 病院内の認証情報を窃取 — 給食サーバーを踏み台に、院内の他サーバーの認証情報をツールで窃取。給食サーバーと他サーバーのID・パスワードは共通で、窃取は容易だった
    5. 他のサーバーに侵入 — 窃取した認証情報で、電子カルテなどの基幹システムのサーバーに侵入
    6. 端末へのログオン試行 — 侵入したサーバーを経由して、端末(クライアント)へのログオンを試みた可能性
    7. ランサムウェア感染 — 各サーバーで感染・永続化し、身代金要求文書を表示

    結果として、基幹システムのサーバーの大部分が暗号化され、院内の約2,200台のPCにも不正アクセスの痕跡がありました。すべてのサーバーと端末をクリーンインストールすることになり、全体の復旧に73日かかっています。

    手順3〜6は、すべて「ログイン」

    7つの手順を見直すと、入口(手順1)の後に続く手順3から6は、すべて盗んだID・パスワードでのログインです。脆弱性を突いたのは最初の1回で、その後はRDPと共通のパスワードで、正規の利用者のように次々とサーバーに入っています。

    報告書は、院内の問題を「横展開を許した初期設定」として次の4点にまとめています。

    1. ユーザーすべてに管理者権限を与えていたため、ウイルス対策ソフトをアンインストールされた
    2. Windowsのパスワードが、サーバー・端末ごとにすべて共通で、1つのパスワードが窃取されると他のすべてのサーバー(端末)が乗っ取り可能な状態だった
    3. アカウントロックアウトの設定がなく、総当たり攻撃や辞書攻撃でログオンが成功した
    4. 電子カルテのサーバーにウイルス対策ソフトが入っていなかった

    そして報告書は、「侵入を許した場合でも初期設定が適切であれば、大規模に横展開されることはなかった可能性がある」と結論づけています。入口の対策とは別に、入られた後に広げさせない設定が被害の大きさを分けた、ということです。

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    中小企業でも、まったく同じ状態が起きやすい

    「全サーバー・全端末でWindowsのパスワードが共通」という状態は、病院に限りません。PCを一括で設定するとき、同じ管理者パスワードを全台に入れるのは珍しくありません。保守業者が覚えやすいように共通にしている例もあります。

    1つ盗まれると、全部に入れる

    共通のパスワードは、1台から盗まれた時点で全台の鍵になります。報告書の再発防止策は「Windowsのパスワードをサーバー・端末ごとに個別化(ユニーク化)」です。ローカル管理者のパスワードを端末ごとに変える仕組みは、Windowsの標準機能でも用意されています(ローカル管理者パスワードの管理(LAPS))。

    さらに一歩進めると、パスワードが盗まれても、それだけではログインできない状態にしておく方法があります。サーバーや端末のログインに2つ目の要素があれば、手順3〜6のように盗んだパスワードで次々に入ることはできません。

    社内のWindows PC・サーバーへのログインを、社員のスマホでのワンタッチ承認にできます。共通のパスワードが盗まれても、それだけでは他のサーバーや端末にログインできません製品サイトを見る(アプリップリキー)

    自社で今日確認できること

    他の事例:侵入経路と、入られた後の広がり方

    公表資料をもとに整理した他の事例です。入口はそれぞれ違っても、入られた後にPC・サーバーへのログインで広がる点は共通しています。

    • アサヒ — ネットワーク機器から侵入、管理者権限を奪われ約10日間サーバーへのログインが繰り返された
    • アスクル — 多要素認証のない委託先の管理者アカウントから侵入、サーバーの認証情報を集めて移動
    • 岡山県精神科医療センター — 保守用SSL-VPNから侵入、全コンピューター同一の管理者パスワードで水平展開
    • オーミケンシ — 盗まれた認証情報でVPNから侵入、サーバーとファイルサーバーが暗号化
    • 両毛システムズ — VPNアカウントの悪用で侵入、委託元の情報にも影響
    • フェース — VPN機器から夜間に侵入、社内のサーバーとPCが操作された
    • 第一興商(委託先) — 委託先のPC1台の感染で872万件が漏えいのおそれ

    出典

    いまの運用を棚卸ししてみる

    共通のパスワードや、パスワードだけで通るログインが残っていないか。applippliの無料棚卸しでは、10問・約3分で、PCログインまわりで何が手当て済みで、何がパスワードだけのまま残っているかを一覧にできます。

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    報告書は「侵入を許した場合でも初期設定が適切であれば、大規模に横展開されることはなかった可能性がある」と指摘しています。自社のPC・サーバーのログインを10問で一覧にできます。

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    この記事を書いた会社

    株式会社アプリップリ / アプリップリキー

    アプリップリキーは、Windowsのログインをスマートフォンのワンタッチにする国産ソフトです。パスワードを覚えて打つ運用をなくし、誰がいつPCを使ったかを記録に残します。

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